黒狼記

第十三話 ちょっとした一悶着

  「っ……思ってたより痛いな」  錦にしき達が去った後に階段に腰掛けた。 試練の中、ずっと刺さりっぱなしだった手裏剣を抜いた。 刺し傷から血が滲にじみ出てきている。 「私からしたらすごく痛そうなんですけど。今すぐ治しますね」...
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第十二話 第三の試練

  「あんなの無理です! 気絶するなって言うのがもう無理!」「だから、悪かったって。あーでもしないと、当たっちゃうからさ」  目が覚めた椿つばきに小言こごとを言われながら進む。 気絶していた椿をおぶって、一人で二つ目の社やしろ...
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第十一話 第二の試練

   一つ目の社やしろを後にして、緩ゆるやかな下り坂を歩いていた。 「御供おそなえは毎回あんな感じなんですかね?」「かもしれないな。あの狐、稲荷寿司いなりずしを食べてたな」「ですね」「弓月は魂たましいだけの時は食べれなさそうだし、ど...
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第十話 第一の試練

   蒼あおを先頭に二人は試練の待つ道を歩いていく。 だが、地図を持って先頭を歩く蒼は道をすぐに間違えた方へと歩き……数十分もの間、まだ麓ふともの大社近くを歩き彷徨っていた。 「やっぱり、私が前の方がいいんじゃ……」「いや、こ...
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第九話 九尾の試練

  「私わたくしは一尾いちびと申します。季喬様ききょうさまの遣つかいにございます」  ゆっくりとお辞儀をした。 椿つばきもつられるようにお辞儀をするが、弓月ゆみづきは頭を下げずに一尾をじっと見ていた。 左肩には青い人魂も姿を現...
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第八話 伏見九ノ峰大社

「本当に変わった人でしたね」「あれはただの変わり者ではない。人間にしては察しが良すぎる。それに我の事を知っておった。話には出さなかったが、椿つばきの事も……蒼あおの事さえも知っておるような気さえした。我らの旅の目的も十中八九じゅ...
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第七話 お礼のような頼み事

  「遠巻きにこちらを見ていた割には随分とでしゃばるんじゃな」  引き留めていた声に対して、弓月ゆみづきは振り返らずに言う。 椿つばきは振り返って、その声の主を見た。 白い狩衣かりぎぬと黒い袴はかまを着こなし、白い烏帽子えぼし...
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第六話 治癒 と お礼

  「なんてこった、本当に治っとる……」  虚無僧きょむそうは首を触さわりながら呟つぶやいた。 椿つばきが治癒の妖術を施ほどこしてから半刻程で治した。 「治ってよかったです。ちょっと疲れちゃいました」「ようやってくれたの...
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第五話 平穏京の羅京門

   宿屋での野盗退治から三日目の昼が過ぎた頃、京へと辿り着いていた。 「やっと着いたな」「ここが京……なんですね」  二人して、三度笠さんどがさをくいっと上げ、大きな門を眺める。 平穏京へいおんきょう。 そう名付けられている...
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第四話 宿屋からのお礼

 朝日で辺りが明るくなる頃。 なんの変わり映えしない朝の訪れを椿つばきは寝起きのぼんやりとした頭で感じ取っていた。 「なんだろ、このふさふさともふもふしたのは……気持ちいい」  寝ぼけて顔の横にある触り心地の良いものを...
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